【ドクター監修】AGAでは毛根で問題が起こる?仕組みとケア方法を紹介
男性型脱毛症(AGA)では脱毛が起こり薄毛が進行していきます。毛髪は毛根によって作られるため、AGAによる脱毛は毛根に原因があるかもしれません。薄毛の進行を抑えるためにも、毛根とAGAの関係を理解しておきましょう。
この記事では、毛根の役割や毛髪の成長サイクル、AGAにおいて毛根で起こっていること、AGAが疑われる毛根の状態を解説するとともに、毛根を正常に保つための方法を紹介します。
毛根とは
AGAによる脱毛では、毛根に原因がある可能性があります。はたして毛根はどのような働きを担っているのでしょうか。毛根の部位を確認しながら解説します。
毛根の部位
毛根とは「体毛のうち、皮膚の内部に存在する部分のこと」とされています。一方、皮膚から見える部分は毛幹と呼ばれます。
毛根の最下部にはふくらみを帯びた毛球があり、髪の生成に重要な役割を果たしています。毛球には毛髪の成長させるための栄養や指令を送る毛乳頭と、毛髪を生み出す毛母細胞が存在します。
また、毛根には皮脂を生み出す皮脂腺などもあります。
毛根の働き
毛髪は毛根にある毛母細胞が細胞分裂することで成長します。
毛根にある毛乳頭が血液から栄養分を受け取り、毛母細胞に対して髪を作る指示を送ります。指示を受けると毛母細胞は細胞分裂を繰り返して髪が伸びていきます。
ライオン株式会社の資料1)でも、「毛母細胞が活発に増殖することで上方に押し出され、 徐々に分化段階が進むことでケラチンタンパク質の合成が進行する」と説明されています。
1)吉野輝彦, 発毛促進とサイトカイニン,ライオン株式会社研究技術本部生物科学センター,植物の生長調節 Reg 凵lationof Plant Growth & Development Vol,40,No.1,32−38,2005AGAの脱毛が起こる理由
日本皮膚科学会による「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版2)」によると、AGAとは「思春期以降に始まり徐々に進行する脱毛症である」とされています。ここでは、このAGAでどのようにして脱毛が起こるのかを解説します。
2)眞鍋求, 坪井良治, 板見智 他, 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版. 日皮会. 2017, 127, 2763–2777.ヘアサイクルの乱れ
AGAによる脱毛の原因としては、ヘアサイクルの乱れがあります。毛髪には髪が生えてから抜け落ちるまでの「ヘアサイクル(毛周期)」といわれる、成長サイクルがあります。以下のようなヘアサイクルが乱れることで脱毛が起こるのです。
成長期(2〜6年) | 毛母細胞が分裂することで成長する期間です。成長期の毛髪は全体の85〜90%とされます。 |
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退行期(数週間) | 毛乳頭細胞の働きが低下し毛髪の成長が止まる期間です。毛球が小さくなります。 |
休止期(2〜4ヶ月前後) | 毛髪の成長が完全に停止します。成長が止まった毛髪は下から生えてくる新たな毛髪によって押し出され抜け落ちます。 |
AGAは、「毛髪が本来の成長期の期間より早く、退行期・休止期に移行してしまうことにより、毛髪が十分成長できず、軟毛化するもの」と説明されています3)。
成長期の期間は通常2〜6年程度とされていますが、AGAではこの成長期が短くなります。短期間で成長期が終わり、抜け落ちる髪が増えることで薄毛の症状が起こるのです。
また、AGAでは休止期に入った毛髪が成長期に移行せず、休止期に停滞する傾向を示すようになるとされています3)。AGAでは髪の毛が生えなくなるのです。
3)山田久陽,池田明子, 男性型脱毛症治療薬の研究動向,日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)133,73~77(2009)ヘアサイクルが乱れる原因
では、AGAで脱毛を引き起こすヘアサイクルの乱れはなぜ起こるのでしょうか。それには男性ホルモンが大きく関わっています。AGAは男性ホルモンのテストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)という男性ホルモンに変換されることで発症します。
ガイドライン2)では、「髭や前頭部、頭頂部の毛乳頭細胞に運ばれたテストステロンは II 型 5α―還元酵素の働きにより、さらに活性が高いジヒドロテストステロン(DHT)に変換されて受容体に結合」し、「DHTの結合した男性ホルモン受容体はTGF-β や DKK1 などを誘導し毛母細胞の増殖が抑制され成長期が短縮する4)」と説明されています。つまり、以下のような流れで起こるのです。
テストステロンが、体内にある還元酵素5αリダクターゼと結びつく
テストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)という男性ホルモンに変換
DHTが、頭皮の毛乳頭細胞にある男性ホルモン受容体と結合
TGF-βやDKK1などを誘導
TGF-βやDKK1によって毛母細胞の増殖が抑制
毛髪の成長期が短縮
AGAの大きな原因は遺伝
このようにAGAではヘアサイクルが乱れることで脱毛が起こりますが、AGAが起こる大きな原因は遺伝とされています。AGAの81%は遺伝によるものとも言われており5)、大きな割合を占めます。
AGAにおける脱毛には5αリダクターゼや男性ホルモンレセプターが大きな影響を与えていますが、5αリダクターゼの活性度や男性ホルモンレセプターの感受性は遺伝するので、AGAによる脱毛が起こります。
5)Nyholt DR, Gillespie NA, Heath AC, Martin NG, Genetic Basis of Male Pattern Baldness, J Invest Dermatol. 2003, 121, 1561–1564.AGAによって毛根に起こること
脱毛がなぜ起こるかを説明しましたが、ではAGAの脱毛では毛根においてどのようなことが起こっているのでしょうか。ここでは、AGAを発症すると毛根に起こること、AGAにおける毛根の状態を解説します。
毛根が縮小
AGAではヘアサイクルの成長期が短くなることで、毛母細胞の細胞分裂が十分に行われない状態で退行期に移行します。それによって毛根が小さくなっていき、細い髪が増えることになります。
ライオン(株)の論文では、「男性型脱毛症は毛包の数が減少するのはなく,毛包のサイズが減少することにより、硬毛の軟毛化が起こるという現象である」と説明されています6)。
毛根が縮小していくと、最終的には毛包が消失し毛が生えなくなります。
6)横山大三郎,男性型脱毛症と育毛有効成分,油化学1995年44巻4号 p.266-273毛乳頭が休止
AGAでは毛根のなかの毛乳頭が活動を休止します。
髪の毛の成長が止まる退行期では、毛根のなかにある毛乳頭が毛母細胞から離脱します。毛乳頭は毛母細胞に栄養を送ったり髪を作る指示を出したりする役割がありますが、離脱することで髪の成長が止まります。
退行期のあとには休止期が訪れ、髪の毛が抜け落ちます。AGAでは、休止期から成長期に移る毛の割合が減り、毛乳頭が休止した毛根が増えることになり薄毛が進行します。
AGA治療による毛根への働き
AGAの治療では外用薬や内服薬などが用いられますが、こういった治療では毛根に対しても働きがあります。ここでは、AGA治療の方法ごとの毛根への働きを解説します。
外用薬
AGAの治療において発毛を促進するためには外用薬が使用されます。日本皮膚科学会のガイドライン2)では、薄毛に効果のある外用薬の成分としてミノキシジルやアデノシンなどが挙げられています。
これらの外用薬は発毛因子の生成を促進する効果があり、発毛因子が毛根の毛母細胞を刺激します。また、毛母細胞の死滅を抑制する働きがあり、ヘアサイクルにおける成長期を延長します。
AGAの治療での外用薬は、発毛を促進するとともに脱毛も改善する効果があります。
内服薬
AGAの治療には内服薬も利用されます。日本皮膚科学会のガイドライン2)では、フィナステリドやデュタステリドという成分を含む治療薬の内服が有効だとされています。
これらの成分は、テストステロンをジヒドロテストステロンに変換する還元酵素の5αリダクターゼを阻害します。それによってジヒドロテストステロンが抑えられ、毛根の毛乳頭細胞に退行のシグナルを出す脱毛因子の生成を抑制します。
つまり、内服薬によって毛根が退行期に移る期間を伸ばすことができ、脱毛を抑えることができるのです。
毛根を健康に保つ方法
AGAの治療を行うことで薄毛の改善が期待できますが、毛根を健康な状態に保つことも重要です。ここでは、毛根を健康に保つための方法を紹介します。
頭皮マッサージ
毛根の健康を保ちAGAによる薄毛を改善するには、頭皮マッサージが有効です。頭皮マッサージを行うことで、毛根のなかにある毛包や毛乳頭に刺激を与えることができ、髪の毛を太くできる可能性があります。
小山太郎先生らの研究チームによると、頭皮マッサージによって毛乳頭を包み込んでいる毛包へ物理刺激が与えられると考えられています。そして、頭皮マッサージ器を使って24週間頭皮伸展マッサージを行ったところ、髪の毛の太さが増大することが確認されました7)。
頭皮マッサージで毛根に刺激を与えることで、髪の健康を保つことができるのです。頭皮マッサージはすぐにでも取り入れられるため、毎日のケアに取り入れるのがよいでしょう。自宅でできる頭皮マッサージの方法については以下の記事で解説しています。
7)Koyama T, Kobayashi K, Hama T, Murakami K, Ogawa R, Standardized Scalp Massage Results in Increased Hair Thickness by Inducing Stretching Forces to Dermal Papilla Cells in the Subcutaneous Tissue, Eplasty. 2016 , 16:, e8. eCollection 2016.食生活
毛根を健康に保つには、食生活に気を配り毛根や髪の毛の成長に必要な栄養素を摂取することが大切です。頭皮や髪の毛に必要な栄養が不足すると、毛根のなかの毛乳頭が血液から受け取る栄養が不足し、髪が十分に成長できません。
タンパク質やビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛といった栄養素をバランスよく摂取することを心がけましょう。
脂質や高脂肪食は摂りすぎない方がよいです。高脂肪食を過剰に摂取すると、毛包の萎縮や脱毛の促進などを引き起こす可能性があります。
睡眠
毛根を健康に保つには、良質な睡眠をとることも重要です。
睡眠中には、頭皮の新陳代謝や毛髪の成長を促す成長ホルモンが分泌されます。特に、成長ホルモンは質の良い深い睡眠時に多く分泌されるといわれています。深い睡眠がとれていないと、成長ホルモンの分泌量が減少し、毛根の新陳代謝を低下させたり毛髪の成長をさまたげたりする可能性があります。
深い睡眠をとるためには、就寝直前の飲食やスマートフォンの使用を避けたり、適度なストレッチを行ったりするのがよいでしょう。
ストレス対策
毛根の健康のためにはストレス対策も有効です。
Erling Thom氏の論文8)には、ストレスを受けた際に分泌されるコルチゾールというホルモンが、毛包の機能と周期的調節に影響を与えることが書かれています。
また、ストレスを感じると交感神経が優位になり、血管の収縮を引き起こす可能性があります。血管が収縮すると頭皮の血行が悪くなり、毛根に栄養が届きにくくなる恐れがあるため、ストレスを溜め込まないようにしましょう。
8)ErlingThom,Stress and the Hair Growth Cycle: Cortisol-Induced Hair Growth Disruption,J Drugs Dermatol. 2016 Aug 1;15(8):1001-4.禁煙
喫煙習慣がある人は禁煙をするのもよいです。
タバコには毛細血管を収縮させるニコチンが含まれています。毛細血管が収縮して血行が悪くなると、頭皮や毛根に栄養が運ばれにくくなってしまいます。
また、喫煙をすることで脱毛を引き起こす可能性があります。喫煙と髪の健康に関する研究9)では、喫煙と脱毛には関連性があるとされており、1日に大量のタバコを吸った被験者に重度のAGAの症状が観察されました。
毛根を健康に保ちAGAの進行を防ぐためにも、減煙や禁煙を検討してみましょう。
9)Arash Babadjouni, Delila Pouldar Foulad, Bobak Hedayati, Evyatar Evron, Natasha Mesinkovskaa, The Effects of Smoking on Hair Health: A Systematic Review. 2021 Jun; 7(4): 251–264.非接触振動圧刺激装置を使用する
毛根に刺激を与えてAGAによる薄毛を改善したい場合は、非接触振動圧刺激装置を利用するのもよいです。非接触振動圧刺激装置は、超音波によって非接触で頭皮に振動圧刺激を与える装置です。
ピクシーダストテクノロジーズと日本医科大学形成外科教室・Dクリニックが共同で行った研究では、超音波を用いて非接触で頭皮に振動圧刺激を与える技術により発毛を促進することが認められました。発毛治療に使用する塗り薬と併用することで、通常よりも早いスピードでの発毛が期待できます。
この装置は、薄毛・AGA治療を行っているDクリニックに試験的に導入されています。AGAの治療を検討している人や、すでにミノキシジル外用薬などでAGA対策を行っている場合はこういった装置の利用も検討してみましょう。
まとめ:毛根に異常が見られたら早い改善がおすすめ
毛根には毛髪の成長をコントロールする働きがありますが、AGAを発症すると毛根の委縮や毛乳頭の休止などを引き起こし、脱毛が起こりやすくなります。
抜け毛が増えたと感じる場合は、AGAによって毛根にトラブルが起こっている可能性があります。毛根のトラブルを放置すると薄毛が進行してしまう恐れがあるので、AGAクリニックで検査をしてもらう、頭皮マッサージや生活習慣の見直しを行うなど、早めに対策を取りましょう。
AGA専門のクリニックでは、マイクロスコープなどで頭皮の状態を詳しく検査してもらえますし、症状や進行度に合わせた専門的な治療を受けることができます。