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AGA

【ドクター監修】AGAは遺伝するというのは本当?遺伝する人の特徴や進行を遅らせる方法を解説

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監修ドクター
高田弘弥
日本医科大学形成外科学教室・抗加齢予防医学講座教授 医学博士・工学博士 【略歴】京都大学大学院工学研究科,名古屋大学大学院医学系研究科修了後,イギリス・ウォーリック大学,フランス国立科学研究所へ留学,日系化粧品会社所長代理・フランス系化粧品会社マネージャを経て,2018年より日本医科大学付属病院形成外科講師,現在同教授 【受賞歴】第11回世界毛髪研究会議(国際毛髪会議)最優秀賞(口頭発表部門),バルセロナ(スペイン),2019年など

AGAとは男性型脱毛症(androgenetic alopecia:AGA)の略称で、薄毛や脱毛の大きな原因となります。祖父が薄毛など、親族にAGAの人がいる場合、遺伝によって自分も将来は薄毛になってしまうのではないかと不安な人は多いと思います。

はたしてAGAは遺伝するのでしょうか?そして、もし遺伝するのであれば、今のうちからできる対策などもあるのでしょうか?

この記事では、AGAと遺伝の関係性について論文など信頼できる情報をもとに解説するとともに、遺伝以外の薄毛の要因や薄毛・抜け毛の予防法について解説していきます。

AGAは遺伝する?

AGAは遺伝するのでしょうか?遺伝しないのであれば、親族に薄毛の人がいても恐れる必要はありません。

ですが残念ながら、AGAと遺伝には深い関係があるということがわかっています。日本皮膚科学会による「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」1)には、「男性型脱毛症の発症には遺伝と男性ホルモンが関与する2)」と書かれています。

さらに、AGAの遺伝率は81%ともいわれています3)

AGAは薄毛の原因として大きな割合を占めており、男性の脱毛の95%以上ともいわれています4)

つまり、男性の薄毛の原因の95%がAGAで、その81%が遺伝によるものということです。遺伝が要因のすべてではないにしても、多くの場合は遺伝がAGAに関係しているといえるでしょう。

1)眞鍋求, 坪井良治, 板見智 他, 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版. 日皮会. 2017, 127, 2763–2777. 2)Hamilton JB: Male hormone stimulation is a prerequisite and an incitant in common baldness, Am J Anatomy, 1942; 71: 451―480. 3)Nyholt DR, Gillespie NA, Heath AC, Martin NG, Genetic Basis of Male Pattern Baldness, J Invest Dermatol. 2003, 121, 1561–1564. 4)Paul J. McAndrews, American Hair Loss Association(アメリカ脱毛症協会)

AGAが起こる仕組みとは?

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AGAが遺伝する仕組みを考えるには、まずAGAが発生するメカニズムを知る必要があります。AGAはなぜ起こるのでしょうか?

日本皮膚科学会のガイドライン1)では、「髭や前頭部、頭頂部の毛乳頭細胞に運ばれたテストステロンは II 型 5α―還元酵素の働きにより、さらに活性が高いジヒドロテストステロン(DHT)に変換されて受容体に結合する」「前頭部や頭頂部の男性ホルモン感受性毛包においては、DHTの結合した男性ホルモン受容体はTGF-β や DKK1 などを誘導し毛母細胞の増殖が抑制され成長期が短縮する5)」と説明されています。

この仕組みをよりわかりやすく解説していきます。

5)板見 智, 男性型脱毛症の内服療法[特集:ガイドラインに基づく男性型脱毛症診療]週刊日本医事新報 2018, 41

1.テストステロンがジヒドロテストステロンに

AGAは、「テストステロン」という男性ホルモンが「ジヒドロテストステロン(DHT)」という男性ホルモンに変換されることから始まります。

血中で体を巡っているテストステロンが髪の毛をつくりだす毛乳頭細胞や毛母細胞に到達し、「5α還元酵素(5αリダクターゼ)」という酵素と結びつくことにより、「ジヒドロテストステロン」という別の男性ホルモンに変換されます。

2.ジヒドロテストステロンが受容体と結合

ジヒドロテストステロン(DHT)が発生すると、毛母細胞にある男性ホルモンレセプター(受容体)がそれをキャッチして結合します。

受容体とは、男性ホルモンを受け取るための受け皿のようなものです。この受容体と結合することで、DHTは髪の成長を短縮する働きをします。

3.TGF-βやDKK1の増加

ジヒドロテストステロン(DHT)が受容体と結合すると、脱毛因子と呼ばれる「TGF-β」や「DKK1」が増加します。これらの脱毛因子が毛母細胞に脱毛の指示を出します。それによって、髪の毛をつくる毛母細胞の増殖が抑制され、成長期が短縮されてしまうのです。

大阪大学大学院皮膚・毛髪再生医学の板見智教授も、「男性型脱毛症の内服療法」で、「男性ホルモンの刺激で毛乳頭細胞より誘導されるTGF-βやDKK1が毛包角化細胞の増殖を抑制し成長期を短縮させる」と説明しています5)。脱毛因子によって頭髪の成長期が短くなることで、髪の毛が細く短くなり薄毛が起こるのです。

このように見ると、ジヒドロテストステロンに変換する酵素「5αリダクターゼ」と、その酵素をキャッチして脱毛因子を増加させる「男性ホルモンレセプター」が重要だということがわかります。

AGAが遺伝するメカニズム

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男性のAGAが発生する仕組みを理解したところで、次になぜAGAが遺伝するのかをみていきます。

AGAが遺伝する要因

AGAの仕組みをみたところ、AGAの発生に大きく関わっていたのは「5αリダクターゼ」と「男性ホルモンレセプター」でした。そして、酵素である5αリダクターゼと男性ホルモンレセプターの感受性は遺伝します。これがAGAが遺伝する理由なのです。

ガイドライン1)でも、「遺伝的背景としてはX染色体上に存在する男性ホルモンレセプター遺伝子の多型や常染色体の17q21や20p11に疾患関連遺伝子の存在が知られている6)」とされています。つまり、AGAに関連する遺伝子が存在しており、それによってAGAが起こるのです。

6)Li R, Brockschmidt FF, Kiefer AK, et al: Six novel susceptibility Loci for early-onset androgenetic alopecia and their unexpected association with common diseases, PLoS Genet, 2012; 8: e1002746.

父方、母方どちらから遺伝する?

AGAは遺伝しますが、父方と母方のどちらから遺伝するのでしょうか?

こちらの記事では、52,000人のゲノムと健康データを調査・分析したところ、男性を「薄毛」にする遺伝的シグナルの多くは、母親から受け継いだX染色体由来のものであることが分かったとされています7)

ただし、常染色体の17q21や20p11に疾患関連遺伝子があることもあるので6)、父方からも遺伝する可能性はあります。

このようにAGAは父方、母方両方から遺伝しますが、母方から遺伝する可能性が高いので、特に母方の親族に薄毛の人がいるかどうか確認しておくのがよいでしょう。

7)Saskia P. Hagenaars,W. David Hill,Sarah E. Harris,Stuart J. Ritchie,Gail Davies,David C. Liewald,Catharine R. Gale,David J. Porteous,Ian J. Deary,Riccardo E. Marioni : Genetic prediction of male pattern baldness, 2017; 2

AGAは隔世遺伝する?

AGAは遺伝することがわかりましたが、隔世遺伝もするのでしょうか?AGAが遺伝するメカニズムを考えると、AGAが隔世遺伝することがわかります。

というのも、自身の母方の祖父がAGAだった場合、母親はX染色体にAGAに関連する遺伝子を持っていることになります。そして、その母親から生まれた息子は同じ遺伝子を持つ可能性が高いので、孫に隔世遺伝することがあるのです。

祖父母および母のX染色体に薄毛の遺伝子が含まれている場合、生まれた男子は75%の確率で薄毛を発症することになります。

もちろん、常染色体の「17q21」や「20p11」に疾患関連遺伝子がある6)場合は、父方の祖父からも隔世遺伝する可能性がある7)ため、母方の祖父が薄毛でないからといって安心はできません。

遺伝しているかどうか調べる方法

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ここまでAGAと遺伝に関して詳しく説明してきましたが、自分自身にAGAを発症させる要因が遺伝しているか調べたいという人もいると思います。それを調べる方法としては、以下の2つがあります。

クリニックでの遺伝子検査

薄毛やAGA治療専門のクリニックでは、遺伝子検査を受けられるクリニックがあります。

AGAの遺伝子検査では、「アンドロゲンレセプター遺伝子検査」というものが利用されることが多いです。テストステロンやジヒドロテストステロン(DHT)といった男性ホルモンをキャッチする受容体であるアンドロゲンレセプター(AR)を計測する検査です。

ARを調べることで、男性ホルモンの結びつきやすさ、AGAを引き起こす遺伝子があるかを調べられます。

遺伝子検査キット

AGAの因子が遺伝しているかどうかは自宅でも調べられます。現在は手軽に遺伝子を調べられる検査キットがいくつも市販されています。

例えば、DHCの「遺伝子検査 毛髪対策キット」では、アンドロゲンレセプター遺伝子について調べられます。キットに唾液を入れて郵送するだけで、AGAリスクが「高め」「中程度」「低め」のどれであるかが判別可能です。

また、イースト駅前クリニックの「毛髪ホルモン量測定キット」は、5本の髪の毛を採取して郵送するだけで、AGAの要因である「ジヒドロテストステロン(DHT)」の値を調べることができます。ステージ1〜4の4段階でAGAリスクが分類され、1であれば特に問題はありません。

漢方生薬研究所の「AGAリスク遺伝子検査」では、アンドロゲンレセプターの感受性の高さに加えて、「プロペシア(フィナステリド)」というAGA治療でよく用いられる内服薬の効きやすさを調べられます。AGAリスクとともに治療が効くかについても調べられます。

これら以外にも、さまざまな遺伝子検査キットが販売されています。検査内容や予算などをよく確認して、自分に合ったものを探してみてください。

遺伝によるAGAの進行を抑える方法

クリニックでの検査や市販の検査キットによってAGAの遺伝が発覚したとして、AGAの進行を抑えることはできるのでしょうか。

ガイドライン1)では、日本人男性の発症頻度は「20代で約10%、30代で20%、40代で30%、50代以降で40数%」とあり、年齢が上がるにつれてAGAを発症する割合が高くなります。だからこそ、早めに対策を行っておいたほうがよいのです。

ここでは、AGAの進行を抑えるための方法を5つ紹介します。

頭皮マッサージ

頭皮マッサージを行うことで、AGAの進行を抑えることができます。

Dクリニックと日本医科大学形成外科学教室(小川令教授)による研究では、市販の頭皮マッサージマシンで毎日4分のマッサージを24週行ったところ、「毛の本数や伸びに変化は見られなかったものの、毛髪の太さが増大することが確認された」とのことです。

AGAでは、髪の成長期が短縮することで髪の毛が細く短くなり、それによって薄毛が起こります。だからこそ、頭皮マッサージでAGAによる薄毛の進行を抑えることができるのです。頭皮マッサージは比較的手軽にできる方法なので、ぜひ日々のケアに取り入れましょう。

LEDおよび低出力レーザー照射

LEDや低出力レーザーを照射することでも、AGAの進行を抑えることが可能です。LEDや低出力レーザーには発毛効果が期待できます。

ガイドライン1)では、LEDの効果については「LEDおよび低出力レーザーの発毛効果に関しては、有用性を示す十分な根拠があり、副作用も比較的軽微であることから、適切な機材を使用して行うよう勧めることにする4)」と記載されています。

AGAが遺伝している場合でもLEDには発毛の効果が期待できるので、AGA専門のクリニックなどで利用するのがよいでしょう。

外用薬

AGAの進行を抑える方法として外用薬も有効です。ガイドライン1)によると、薄毛に効果のある成分としてはミノキシジル・アデノシンなどが挙げられています。このような発毛に効果のある成分を含んだ外用薬を塗布します。

ミノキシジルなどを含んだ外用薬は多数市販されていますし、専門クリニックでは成分の濃度が高いものを処方しているところもあるようです。

専門クリニックでの治療

遺伝によってすでにAGAがかなり進行している場合やAGAの進行をより確実に抑えたい場合などは、AGA治療専門のクリニックを利用するのがよいでしょう。

AGA治療を専門とするクリニックであれば、頭髪専門の医師に診断してもらえますし、より効果的な治療を行ってもらえます。最新の設備を取り入れているクリニックなどもあるので、AGAの進行をより抑えられるはずです。

例えば、頭髪治療を専門とするDクリニックでは、超音波によって非接触で頭皮に振動圧刺激を与える「非接触振動圧刺激装置」を試験的に導入しています。発毛治療に使用する塗り薬と超音波による振動圧刺激の技術を組み合わせることで、より高い発毛効果が期待できます。

まとめ:AGAが遺伝している場合は早めに対策を

AGAの発生には遺伝が大きく関わっています。ただ、自身にAGAが遺伝していた場合でも、早い段階から適切な治療を受ければ、AGAが発症した際の進行を抑えることができる可能性があります。

頭皮マッサージや外用薬、LEDなど方法はさまざまありますが、より効果的に対策をしたい場合は、AGA治療を専門とするクリニックを利用するのがよいでしょう。

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