【ドクター監修】男性ホルモンが髪の毛に及ぼす影響とは?その関係性と薄毛対策法を紹介
薄毛や抜け毛が気になっている人のなかには、薄毛は男性ホルモンによって起こるのかと疑問に思っている人もいると思います。
男性ホルモンには様々な働きがありますが、髪の毛の発育にも関係しているのでしょうか。もし関係している場合、どのような影響を与えているのでしょうか。
この記事では、男性ホルモンの働きや髪の毛との関係性について解説します。髪の発育に影響を与える男性ホルモン以外の要因も紹介します。
男性ホルモンとは
そもそも男性ホルモンとはどのようなものなのでしょうか。男性ホルモンとは、男性の生殖器の発育を促進し、第二次性徴を発現させる作用をもつ物質の総称です。変声や筋肉・骨の増強、判断力・記憶力・やる気の向上などを促す働きがあります。
男性ホルモンには以下のような種類があり、それぞれ異なる働きを持っています。
種類 | 特徴・主な働き |
---|---|
テストステロン | 男性の精巣から分泌されている男性ホルモン。男性ホルモンのなかで最も分泌量が多く、筋肉や骨格の成長促進、性的欲求の増進、男性的な思考性の形成などを促す。 |
ジヒドロテストステロン (DHT) | テストステロンが5αリダクターゼという還元酵素の働きによって変換されてできる男性ホルモン。胎児期は男性の外性器(陰茎・陰嚢)の発達、思春期は体毛や声変わりの発現を促し、思春期以降は男性型脱毛症(AGA)や前立腺肥大症などの発症に影響を及ぼす。 |
アンドロステロン | テストステロンやジヒドロテストステロンが変化したものであり、肝臓などで合成される。微弱ではあるものの、テストステロンに似た働きを持つ。 |
デヒドロエピアンドロステロン (DHEA) | 副腎皮質で生成されるホルモンであり、後にテストステロンなどに変換される。身体の免疫機能をサポートする働きがあるといわれており、抗肥満や抗糖尿病、抗動脈硬化などの作用があるとされている。 |
男性ホルモンの髪の毛への影響
男性ホルモンは髪の毛の成長に深く関与しています。というのも、男性ホルモンの働きによって男性型脱毛症(AGA)が起こり、薄毛や抜け毛を引き起こすからです。
AGAに関係する男性ホルモンは、テストステロンとジヒドロテストステロンです。それぞれが髪にどのような影響を与えるかについて詳しく解説します。
髪の毛に影響を与える男性ホルモン、ジヒドロテストステロン
髪の毛に直接影響を与え、薄毛や抜け毛を起こすのはジヒドロテストステロンという男性ホルモンです。
男性の場合、男性型脱毛症(AGA)によって薄毛を引き起こすことが多いですが、このAGAの原因となるのがジヒドロテストステロンなのです。坪井良治先生の論文では、「テストステロンから活性化された dihydrotestosterone(DHT)が男性型脱毛症の発症に大きく関係している」と説明されています1)。
ジヒドロテストステロンは、頭皮にある男性ホルモン受容体(アンドロゲンレセプター)と結合することで、TGF-βやDKK1などの脱字因子を増加させます。それによって、髪の毛を生み出す毛母細胞の増殖が抑制され、髪の毛が生えてから抜け落ちるまで周期(ヘアサイクル )が乱れます。ヘアサイクルのなかで髪の毛の成長期が短くなり、十分に成長していない細く短い髪の毛や抜け毛が増加し、薄毛となるのです。
1)坪井良治, 男性型脱毛症治療の現状と今後の展望, 日薬理誌 (Folia Pharmacol. Jpn.) 2009, 133, 78–81.ジヒドロテストステロンを生み出すテストステロン
男性ホルモンであるテストステロンも、間接的に髪の成長やAGAの発症に影響を及ぼしています。
というのも、上で解説したジヒドロテストステロンは、テストステロンが体内に存在する還元酵素の5αリダクターゼと結合することで生み出されるからです。AGAは以下のようにして起こります。
テストステロンが、前頭部・頭頂部に局在する5αリダクターゼと結合
テストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)に変換される
ジヒドロテストステロンが、頭皮の毛乳頭細胞にある男性ホルモン受容体と結合
毛母細胞の増殖が抑制され、頭髪の成長期の短縮を引き起こす
十分に成長していない細く短い髪の毛や、抜け毛が増加
このように、AGAの直接的な原因はジヒドロテストステロンですが、テストステロンもAGAを引き起こすきっかけとなっているといえます。
男性ホルモンの量で髪の毛への影響は変わる?
男性ホルモンであるテストステロンやジヒドロテストステロンが、髪の毛に影響を及ぼしていることがわかりましたが、男性ホルモンの量によって髪の毛への影響は変化するのでしょうか。
結論から言うと、ジヒドロテストステロンが多いとAGAを発症するリスクが高まりますが、ジヒドロテストステロンに変化するテストステロンは、量が多いからといって髪の毛に影響が出るというわけではないです。
AGAでは「5α還元酵素の活性やDHTへの感受性が強い人ほど進行が進みやすい脱毛症」とされており2)、AGAを発症しやすいかどうかは、テストステロンの量よりも5αリダクターゼの活性度や、男性ホルモン受容体の感受性が影響します。テストステロンが多いからといってAGAや薄毛が進行するわけではありません。
AGAの直接的な原因となるのはジヒドロテストステロンなので、薄毛を防ぐにはジヒドロテストステロンの生成を抑える対策を行ったほうがよいでしょう。
2)景山達斗, 毛髪再生医療を目指した毛包原基の大量調製に関する研究, 横浜国立大学大学院. 2017髪の毛へ影響を与える男性ホルモンを抑える方法
髪の毛に影響を及ぼす男性ホルモンであるジヒドロテストステロンを抑えるには、内服薬が有効です。
日本皮膚科学会の「男性型および女性脱毛症診療ガイドライン2017年度版」3)では、内服薬の成分としてフィナステリドとデュタステリドが推奨されています。
それぞれの働きや効果について、ガイドラインに順守して、詳しく解説します。
3)眞鍋求, 坪井良治, 板見智 他, 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版. 日皮会. 2017, 127, 2763–2777.フィナステリド
フィナステリドは、5αリダクターゼの働きを阻害し、テストステロンがジヒドロテストステロンに変化するのを防ぐ成分です。5αリダクターゼにはI型とII型がありますが、フィナステリドはII型に働きかけます。
「男性型脱毛症治療薬の研究動向」という論文4)には、「フィナステリドはTESを活性化させるII型の5α-還元酵素を抑制することにより、DHTの生成を阻害する。これにより毛包のミニチュア化を抑制し、本来の成長期の期間を維持して、毛髪を太く成長させる作用を示す」と記載されています。
つまり、ジヒドロテストステロンの生成を抑えるだけでなく、AGAによって短縮されたヘアサイクルを改善し髪の毛を太く成長させる働きも認められているのです。
フィナステリドを含んだ代表的な内服薬としては「プロペシア」などがあります。市販はされていないため、AGA専門のクリニックや病院の皮膚科などの医療機関で処方してもらう必要があります。
4)山田久陽, 池田明子, 男性型脱毛症治療薬の研究動向, 日薬理誌. 133, 73~77(2009)デュタステリド
デュタステリドは、5αリダクターゼのI型とII型の両方に作用してジヒドロテストステロンの生成を抑える成分です。
ガイドライン3)では、「頭髪写真評価で毛量増加を示した被験者比率を比較したところ、デュタステリド0.5 mg/日内服群はプラセボ群に対して優れた効果を示した」と報告されています5)。また、120名の男性被験者を対象とした試験では、 直径30 μm以上の非軟毛数、硬毛数、非軟毛直径が52週の時点でそれぞれ13.5/cm²、15.2/cm²、6.5nm増加しました6)。
デュタステリドを主成分とする代表的な内服薬としては「ザガーロ」などがあり、フィナステリドと同様に医療機関で処方してもらう必要があります
5)Gupta AK, Charrette A: The efficacy and safety of 5α-reductase inhibitors in androgenetic alopecia: a network meta-analysis and benefit-risk assessment of finasteride and dutasteride, J Dermatolog Treat, 2014; 25:156―161. 6)Tsunemi Y, Irisawa R, Yoshiie H, other, Long-term safety and efficacy of dutasteride in the treatment of male patients with androgenetic alopecia, J Dermatol, 2016;43: 1051―1058.薄毛や抜け毛の進行を防ぐ方法
髪の毛を健康に保ち薄毛や抜け毛を防ぐには、男性ホルモンを抑える以外の方法も有効です。ここでは、男性ホルモンの抑制以外で薄毛や抜け毛の進行を防ぐ方法を紹介します。
外用薬
薄毛や抜け毛を防ぐには、ミノキシジルを含んだ外用薬やアデノシンを含んだ外用ローションも有効です。これらの成分には、ヘアサイクルの正常化や育毛・発毛促進、発毛因子の産出などの効果があると考えられています。
ガイドライン3)では、「ミノキシジル外用の発毛効果に関して、高い水準の根拠があるので、男性型脱毛症に5%ミノキシジル、また女性型脱毛症に1%ミノキシジル を外用するよう強く勧める」と説明されており、推奨度はAとなっています。
また、アデノシンについては「アデノシンの発毛効果に関しては、男性に対する有効性を示す十分な根拠がある」と説明されており、推奨度はBです。
これらの外用薬・外用ローションはAGA専門クリニックで処方してもらうこともできますし、市販品もあります。
LED・低出力レーザー
LEDや低出力レーザーによる光の刺激も、薄毛や抜け毛に有効です。LEDによる光を頭皮に照射することで、髪の成長促進や発毛などの効果が期待できます。
ガイドライン3)では、「LED および低出力レーザーの発毛効果に関しては、有用性を示す十分な根拠があり、副作用も比較的軽微であることから、適切な機材を使用して行うよう勧めることにする」と説明されています。
LEDが髪の毛に及ぼす影響については、以下の記事で詳しく解説しています。
頭皮マッサージ
薄毛や抜け毛の進行を防ぐには、頭皮マッサージを行うのもよいです。
AGA専門のクリニックであるDクリニックの研究7)では、市販の頭皮マッサージ器を使って毎日4分のマッサージを24週間行ったところ、毛径の有意な増加が確認されました。
頭皮マッサージを行うことで、毛髪の成長期が延びることで髪の毛を太くし、薄毛を改善できる可能性があります。
頭皮マッサージの方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
7)Koyama T, Kobayashi K, Hama T, Murakami K, Ogawa R, Standardized Scalp Massage Results in Increased Hair Thickness by Inducing Stretching Forces to Dermal Papilla Cells in the Subcutaneous Tissue, Eplasty. 2016 , 16:, e8. eCollection 2016.食生活の見直し
健康的な髪の毛を維持するためには、食生活の見直しも必要です。髪の成長に必要な栄養が不足していると、長く太い毛が育ちにくくなってしまいます。
髪の毛の成長に必要なタンパク質やビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、亜鉛などの栄養素を普段の食事で摂るのがよいです。また、脂質を摂り過ぎると抜け毛が進行する恐れがあるため、栄養バランスの整った食事を心がけましょう。
生活習慣の改善
薄毛や抜け毛を防ぐには、睡眠やストレス、喫煙などの生活習慣を改善することも大切です。
睡眠不足になると、髪の成長に欠かせない成長ホルモンの分泌が減少し、薄毛や抜け毛につながる恐れがあります。十分な睡眠を取るように心がけましょう。
また、ストレスを溜め込んでいることも髪の毛に悪影響を及ぼします。マウスを用いて行われた研究では、「ストレスホルモンが毛包幹細胞の調節を介して発毛を抑制することが明らかになった」とされています健康的な髪の毛を維持するためにも、趣味や息抜きの時間を設けストレスを溜めないようにしましょう。
さらに、喫煙者は非喫煙者よりもジヒドロテストステロンの数値が高いといわれている8)ため、減煙や禁煙も検討するのがよいでしょう。
8)Field AE, Colditz GA, Willett WC, Longcope C, McKinlay JB,The relation of smoking, age, relative weight, and dietary intake to serum adrenal steroids, sex hormones, and sex hormone-binding globulin in middle-aged men,1994非接触振動圧刺激装置
薄毛を改善するには、非接触振動圧刺激装置を利用するのも有効です。
非接触振動圧刺激装置は、超音波によって非接触で頭皮に振動圧刺激を与える装置です。
ピクシーダストテクノロジーズと日本医科大学形成外科教室・Dクリニックが共同で行った研究では、超音波を用いて非接触で頭皮に振動圧刺激を与える技術により発毛を促進することが認められました。発毛治療に使用する塗り薬と併用することで、通常よりも早いスピードでの発毛が期待できます。
非接触振動圧刺激と発毛治療に使用する塗り薬を併用した治療は、薄毛・AGA治療を行っているDクリニックに試験的に導入されています。
まとめ:男性ホルモンを理解して髪の毛を健康に保とう
男性ホルモンは薄毛を引き起こす原因にもなりますが、筋肉や骨格を作る上でも重要で、必要なホルモンです。薄毛を予防するには、男性ホルモンが脱毛因子を増加させることを抑制する必要があります。
テストステロンは髪の毛に直接的な影響を及ぼしませんが、ジヒドロテストステロンはAGAの原因となる男性ホルモンなので、薄毛や抜け毛を防ぐにはジヒドロテストステロンを抑える対策を行いましょう。
また男性ホルモン以外にも、髪の毛の発育には食生活や睡眠の質なども関係することがあるため、日頃の生活習慣を見直すと良いでしょう。
すでに薄毛や抜け毛が進行している場合は、AGA専門クリニックへの相談を検討しましょう。AGA専門のクリニックであれば、ジヒドロテストステロンを抑える内服薬や外用薬、最新の機器などによる治療が受けられます。