ヘアケアとスカルプケアってどう違うの?30代男女が超音波の頭皮ケアを今すぐ始めるべき理由〈研究者インタビュー〉
何かとストレスフルで、生活習慣も乱れがちな現代社会。悪影響は頭髪にあらわれ、若いうちから髪に悩みを抱える人が男女を問わず増えています。こうした悩みを解決するためには頭皮のケアが重要といわれています。
今回は、工学博士で超音波技術研究の第一人者である星貴之さんに、髪の悩みに対する頭皮ケアの重要性、超音波を用いた最新のケア技術についてお話をうかがいました。
老若男女を問わず高まっている髪の危機管理意識
現代人は、年齢や性別を問わず髪についての悩みを抱えています。
薄毛や白髪、ツヤ・ハリ・コシがなくなるなど髪の悩みの多くは、実は頭皮の健康状態に起因していると言われています。髪の毛も含め、からだ全般の健康にとってもっとも重要なのは、睡眠や食事、運動など、適切な生活習慣。特にからだは寝ている間に回復しますので、十分な睡眠はとても大切です。ですから、まずは生活習慣を見直すことが肝心です。しかし、そうとわかってはいても、現代社会で規則正しい生活を送るのはなかなか難しい。そこで私たちのチームが重要視しているのは頭皮のコンディションを整えるためのスカルプ(頭皮)ケアです。
ヘアケアとスカルプケアは別のものと考えたほうがいいのですか?
ヘアオイルやシアバターなど髪自体に施す一般的なヘアケアとはまったく別のものと考えてください。スカルプケアは頭皮自体をケアして血行を改善するので、髪の健康のためにとても有効だと考えられます。そもそも血行不良は、からだにとってトラブルのもと。例えば心筋梗塞や脳梗塞、動脈硬化などの重篤な疾患から、冷え性や頭痛、肩こり、腰痛、むくみ、肌荒れなど、日常的な悩みまでさまざまな疾患を招きます。髪質の低下や薄毛、白髪など、髪の毛に関するトラブルの多くも、頭皮の毛細血管の血行不良が原因となっています。
スカルプケアは髪の健康に直結する
頭皮の血流を改善すれば髪によい影響があるのですか?
髪の毛は、頭皮のコラーゲン層の中にある毛球部から生えてきます。毛球の下側には髪の元となる毛母細胞があって、これが分裂・増殖することで髪の毛が押し出されるように伸びてくるんです。ですから、毛母細胞が元気であることが、髪の健康のためには不可欠です。そして、その毛母細胞に酸素やエネルギーを与えているのが、毛乳頭と呼ばれる組織です。毛乳頭につながる毛細血管毛乳頭は頭皮に張り巡らされた毛細血管とつながっていて、毛細血管から栄養や酸素を受け取って毛母細胞に与えます。つまり、毛乳頭につながる毛細血管の血行こそが、髪の毛の健康の鍵を握っているといってよいでしょう。また、因果関係はまだよくわかっていませんが、真皮のコラーゲン層が厚くなると毛細血管が太くなり、逆にコラーゲン層が痩せると毛細血管が細くなって毛母細胞に栄養が行き届かなくなることもわかっています。ですから、繰り返しになりますが、頭皮の毛細血管を拡げて血行を改善するスカルプケアが、髪の健康のために重要なのです。
スカルプケアは若いうち、例えば30代でも行うほうが良いでしょうか?
これはまさにその通りだと思います。脱毛症は一度発症してしまうと、治療に時間がかかりますし、進行してしまうものだからです。薄毛や細毛、白髪など気になる状態になってから手当するより、早めに頭皮ケアを始めて、コンディションを保つほうが圧倒的に効率的でしょう。それは男性だけではなく、女性も同様です。
頭皮マッサージやヘッドスパなど、多くのスカルプケアがありますね。
頭皮マッサージも悪くありませんが、力を入れすぎてしまった際に頭皮の摩擦を引き起こし、かえって悪い影響を与えることもあります。また、からだには体内の状態を一定に保とうとする「恒常性」があるため、強い力を与えると強い力で元に戻ろうとします。例えば、マッサージを受けた後に感じる「揉み返し」はこれに似た状態と考えられます。じつは頭皮によいのはごくごく弱い刺激、手で触れる程度の弱い刺激だと私たちのチームでは考えています。超音波でその弱い刺激を与えることで、頭皮の血流改善が認められ、発毛も促進されることが研究で実証されました。
現在研究されている超音波によるスカルプケアとはどのようなものでしょうか?
頭皮に超音波を照射して「非接触振動圧刺激」と私たちが呼んでいる刺激を与え、毛細血管の血流を増やすスカルプケアです。この技術は、弱い圧力が皮膚の再生能力を高めることを確認する研究の副産物として発見されました。国の助成金で進めたある研究プロジェクトで、非接触の超音波をある条件下で当てると、既存の血管から新たな血管枝が分岐して血管網を構築する血管新生が起こりやすいといった結果が明らかになりました。さらに研究を深めていたところ、傷が早く治るだけでなく、偶然にも傷の周りから発毛が確認されました。そして、コラーゲンの生成もしっかり見られました。そこで、超音波による発毛促進の研究にも取り組むことにしたのです。
超音波が頭髪に良い効果をもたらすメカニズムとは?
なぜ超音波でのスカルプケアは血流を改善し、発毛を促進するのでしょうか。
超音波による1g程度という弱い刺激が、毛乳頭組織のカリウムチャネルを開放し、毛細血管を拡張して血流を改善するからです。このカリウムチャネルは細胞膜に存在し、開閉することでカリウムイオンの移動を制御し、細胞の機能を維持しています。毛乳頭細胞の表面に存在する「KATPチャネル」というカリウムチャネルが、超音波スカルプケアのポイントです。
・頭皮にソフトな圧力刺激を与える
↓
・KATPチャネルが開く
↓
・毛細血管が拡がる
↓
・毛細血管の血流がよくなり、毛乳頭に多くの栄養が届く
↓
・毛母細胞が活性化するこのような流れで超音波での圧力が、髪を元気にしてくれます。
毎日のスカルプケア習慣が髪や肌の健康につながる
たとえば女性の髪にも効果は期待できるのでしょうか。
KATPチャネルの開口は、毛周期を正常に整えるさまざまな遺伝子転写も促進すると考えられます。こうしたメカニズムによって頭皮の血流が増進し、発毛効果が期待されます。また、同じくこのようなメカニズムで毛乳頭組織への血流が良くなります。髪の毛が太くなり、コシやハリも感じるため、女性の悩みで多いボリューム不足の解消につながります。白髪の改善もタイプによっては期待できると考えており、研究を進めています。また、頭皮の毛細血管は顔の皮膚にもつながっています。髪だけではなく、顔のシワやたるみなどの改善も期待できるかもしれません。
超音波でのスカルプケアは髪や肌の健康にも有用なのですね。
男性にとってはAGAの予防にもつながり、女性にとっては髪の健康とともに顔の肌への効果も見込める。ぜひ、若いうちから超音波でのスカルプケアを始めてほしいですね。